釉薬を作ってみよう!


自然釉
薪を燃料にして焼くとき、炎の当たる正面に付着するガラス状のものが自然釉です。

 陶芸にはいろんな楽しみ方がありますが、釉薬作りはまた格別なものです。趣味で陶芸をされている方に、自分でオリジナルの釉薬を作って陶芸をもっと楽しんでいただきたい、というのがこのページの目的です。そのためにできるだけ分かり易く簡単に、私の経験と知識を(わずかですが)お伝えできたらと思っています。でももしかして、間違いや説明の不備があるかもしれません。それがあれば(私の無知と不勉強のなせるところです)今後の勉強にしたいと思いますので、どうかご指摘ご教授ください。また分かり易く簡単にとは言うものの、焼成温度をかなり幅のある大雑把な設定(1180℃〜1280℃)にして、しかも個々の調合で温度を示しませんでした。 これは陶器に使用する釉薬が、この焼成範囲で、調合と温度にかなりの融通性(あいまい性)があると考えているからなのですが、この点もご意見をお聞かせいただけたら幸せです。

1.想像してみる 2.分析と分類 3.色釉を作る 4.伝統的な釉を調べる 5.釉調とゼーゲル式

はじめに
 まず釉薬を作ると言えば、どんな色の?と考えるのが普通でしょう。でも本当は逆なんです。釉薬の色は、そのベースになるガラス質に溶け込んでいる金属の種類と量で決まります。ですから釉薬を作るとは、「まず自分が焼きたい温度で熔融する基釉(無色のガラスのようなもの)を作ること」と、考える方が分かり易いと思います。色は後で金属を加えればいいのですから。(乳濁釉やマット釉、結晶釉などは別ですが、その辺のことは後ほど釉調のところで説明することにします。)
 では最初に戻って「釉薬とはどんなものか」、なぜ熔けるのか、熔けるとはどういうことなのか、それを簡単に分かっていただくには、ゼーゲル式(釉の化学式)で説明するのが一番近道なのですが、化学記号なんか見るのもいやだという方のために、化学的な用語はできるだけ使わないで、実践的に説明して行こうと思います。ただどうしてもゼーゲル式を避けては通れないところもありますので、最後の方で少しだけ説明することにはなるでしょう。でももちろんそこを無視しても釉薬は作れます。

1.想像してみる
 実用の器として焼かれたおそらく最初の焼き物である縄文土器は、窯ではなく野焼きなので焼成温度はせいぜい800度前後でした。それが須恵器になると窖窯(あながま)で焼かれ、1100度以上、温度の高いところでは1200度を超えていたと思われます。その高温度により自然釉が得られました。自然釉を見た須恵器作りの工人、あるいは後に続く工人たちは、このきれいに光る宝石のようなものが、燃料の薪の灰だということはすぐに分かったと思います。でも焚口に残っている灰や、器にかからず周りに積もっている灰を見てどう考えたでしょう。器に降り積もった灰だけが宝石のようなものになったのです。おそらく灰だけでは宝石のようなものはできないのです。「灰と粘土が反応したのではないか」と考える工人はきっと出てきます。彼(彼女)はまず灰を、さらに灰と粘土を混ぜたものを、器に塗って焼いてみようと思ったはずです。釉薬作りは、こんなところから始ったのではないでしょうか。
私も焼いてみることにします。「粘土と松の灰」・「珪砂と松の灰」を混ぜたテストピースを2種類作ってみました。釉薬の材料は(重量合わせの場合)粉にしたものを乾燥させて使います。


材料を乳鉢で擂る

分量(重さ)を量る

水を加え濃度を調節する

1230℃で還元焼成・粘土+松灰

1230℃で還元焼成・珪砂+松灰

 粘土と灰で熔けるのならいろいろ試してみたはずです。砂と灰、石と灰、またいろんな灰と灰など・・・、これが釉薬の調合の始まりでしょう。そして組み合わせは2種類ではありません。砂と石と灰、粘土と石と砂と灰等々、また砂も石も粘土も灰もそれぞれいろんな種類があります。さらに材料の組み合わせだけではなく、そこに分量の組み合わせまで入ってくると、調合のバリエーションはほとんど無限です。となると、「釉薬の作り方」と言っても、とにかく何でもかんでも力づくで組み合わせて、数を頼りに焼いてみるほか道はないようです。実際のところそれに尽きるのです。でもそれって結局分からないのと同じじゃないか?

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2.分析と分類
 確かにそうも言えます。でも調合パターンと結果がある程度の量できてくると、それを分析することができます。昔の工人たちもその分析をして、さらに材料をその性質(役割)によって3種類に分類していたと思われます。(以前私も三角合わせという方法<三角座標>で調合していました。<三角座標>の説明は割愛します。)まだゼーゲル式は使わないので、私はその3種類をそれぞれ「熔かす材料」「繋ぐ材料」「熔ける材料」と呼ぶことにしましょう。その代表的なものを以下に挙げておきます。

■熔かす(ガラス化させる)材料
木の灰・草(イネ科を除く)の灰・石灰・長石など

■繋ぐ(生地と釉薬を結びつける)材料
粘土(カオリン・黄土類を含む)・長石など

■熔ける(ガラス化する)材料
珪石(石英・珪砂)・藁灰・籾灰・その他イネ科の植物(ススキ・芭蕉・竹等)の灰・粘土(カオリン・黄土類を含む)・長石など

この3種類の材料を適度に調整してやると釉薬になるわけです。先のテストで言えば、粘土(繋ぐ材料/熔ける材料)+松灰(熔かす材料)で釉薬ができました。また珪砂+松灰でも(繋ぐ材料がなくても)釉薬になっています。生地の粘土が繋ぐ役目をしたのか、この辺もまたテストしてみる余地はありそうです。今回、粘土と松灰は50%づつにしたのですが、この割合を調節すればまた違った釉になることでしょう。
さて、ここで3種類の材料すべてに顔を出している長石というのに気付かれたと思います。長石は3種類の性質(役割)をすべて持っているだけではなくて、その割合もうまく調整されている、いわば自然に調合された釉薬なのです。したがって当然ながら、長石は釉薬作りにはとても大事な、一番良く使われる材料となっています。
ここで一般的に良く使わている代表的な釉薬の調合を挙げてみます。それを基にして、いよいよオリジナル釉を作ってみましょう。(以下、焼成温度は1180℃〜1280℃の範囲、一般的には1230℃〜1280℃を想定、調合比はすべて重量比です。)

@透明釉
材料
長石 80
土灰 20

@-無色透明の釉を普通こう呼んでいます。一番多く使われている釉薬で、長石80〜85、土灰20〜15が普通です。灰の量がこの程度なら無色透明ですが、量をだんだん増やしていって変化(灰の個性)がでてくると灰釉になります。
土灰とは、いろいろ混ざって種類が特定できない木の灰のことです。草の灰(イネ科を除く)でもかまいません。

A土灰釉
材料
長石 60
土灰 40

A-長石40〜60、土灰60〜40ぐらいで使われています。最も単純な釉薬はこの灰釉の類です。ここで灰の種類を変えれば、その灰の名前の釉薬になります。長石が多い方が安定し、熔融温度も低いようです。これに金属を加えて色釉としている(時には個性を装っている)釉薬もたくさんあります。

B地釉
材料
土石類 50
土灰 50

B-「地釉」としておきます。最初にテストした、粘土と松灰、珪砂と松灰の調合を、一般化したものです。

         C-1    C-2
材料
長石 40 30
土灰 35 45
土石類 25 25

C-1、C-2、調合の公式と言っておきましょう。C-1/ @透明釉とB地釉を混ぜたもの、C-2/ A土灰釉とB地釉を混ぜたものです。両方の材料を足して2で割ればこうなります。こんな方法もあるわけです。1と2を比べてみて分かるように、各材料を10〜20%の範囲で入れ替えても熔融します。土石類とは、繋ぐ材料と熔ける材料のことです。取り敢えずこの調合を覚えるだけでも、かなりのオリジナル釉薬が作れます。
逍山窯の敷地内にある緑色の土を使って、公式通りの調合で焼いてみました。


C-2/ 1250℃で酸化焼成(福島長石30・土灰45・緑土25)

C-2/ 1230℃で還元焼成(福島長石30・土灰45・緑土25)

この公式を使えば、たとえば河原や山でキャンプをしたとき、近くにあった白っぽい石(長石)、バーベキューの木炭や焚き火の灰(土灰)、テントの周りの土(土石類)を持ち帰って、メモリアル釉薬(某年某月キャンプ釉)を作ることも可能です。
尚、上掲した画像で分かるように、同じ調合でも酸化焼成と還元焼成でまったく発色が違っています。これは釉中の金属の状態が酸化と還元で違ってくるからです。一般的に酸化焼成とは燃料を完全燃焼させること、還元焼成とは燃料を不完全燃焼させることを言います。(正確に言えば酸化、還元とは窯内の一酸化炭素濃度のことで、濃度を4%以上に保って焼くと還元、以下だと酸化焼成になります。)因みに電気窯は燃料を使わずに熔融させるので完全な酸化焼成になります。

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3.色釉を作る
 釉の生い立ちから基本的な成分が分かったら、次は色釉を作ってみましょう。
ここでは色釉を作るときに昔から良く用いられている金属、鉄(黄〜茶〜黒)・コバルト(青〜紺)・銅(紅〜緑)の3種類と最近使われるようになったジルコニウム(白)を使ってテストをしてみます。
基釉には2種類、透明釉(福島長石80・土灰20)と、土灰釉(福島長石60・土灰40)を使い、基釉100に対し金属の%はその上に追加(外付けに)しました。      


@ 1230℃で還元焼成
透明釉+べんがら(酸化鉄)6%

A 1230℃で還元焼成
土灰釉+べんがら(酸化鉄)6%

@、Aとも飴釉と呼ばれる色になっています。一般的に釉中鉄分量が4〜7%で飴色、8〜10%で黒色(天目釉と呼ぶ)になります。@、Aとも加えた鉄分量は6%で同じなのに@の方が幾分黒味が強いのはお分かりでしょう。この理由はゼーゲル式を使わないと説明し辛いので、ここではやめておきます。ただ、基釉の違いによって、同じ金属を同じだけ加えても発色が違うということを確認しておいてください。


B 1230℃で還元焼成
透明釉+酸化コバルト0.6%

C 1230℃で還元焼成
土灰釉+酸化コバルト0.6%

B、Cとも同じくらいの青みですが、基釉の違いからマチエールに若干差異がみられ、雰囲気が違って見えます。コバルトは大雑把に言って他の金属の10分の1の量で効果的な発色が得られます。


D 1230℃で還元焼成
透明釉+ジルコン(酸化ジルコニウム)6%

E 1230℃で還元焼成
土灰釉+ジルコン(酸化ジルコニウム)6%

ジルコンが使われるようになる前、白濁させる金属には錫や亜鉛が良く使われていました。
Dは幾分白濁の効果はありますが、Eは全く効果が見えず、基釉の土灰釉となんら変わりません。ジルコンが不足しているのか、基釉が合わないのか、他の金属がいいのか、あらためてテストしてみるのもいいでしょう。


F 1250℃で酸化焼成
土灰釉+炭酸銅6%

銅は還元すると辰砂(しんしゃ)と呼ばれる暗紅色になり、酸化すると緑色になります。Fは織部釉という、銅を使った代表的な緑釉です。
(※織部釉は窯から出したときは表面に薄い皮膜があり、くすんだ色をしているので、希塩酸などで拭いてやるといいでしょう。私は希塩酸溶液に一晩浸けます。)


以上この項は簡単に説明しましたが、要は基釉に金属を加えて色釉ができるということです。特に、基釉によって発色が違ったり、マチエールで雰囲気が変わるということは単純ですが大切なところです。基釉を変えてやってみるのもいいでしょう。当然ですが他にも色釉を作る金属がたくさんあります。同じようにいろいろ試してみてください。昔の工人たちもそうやってきたはずです。


釉薬作りなんてちょっと想像してみれば分かる。難しいものじゃないし、面白そうだと思っていただけたでしょうか。
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4.伝統的な釉を調べる
ここでは代表的な伝統釉を3種取り上げてみようと思います。共通しているのは調合が単純なこと?
@.伊羅保釉
一般的な調合は以下です。

伊羅保釉
材料
黄土類 30〜40
土灰 70〜60

1230℃で還元焼成
芦沼土30,土灰70

黄茶からグリーンがかった色、全体に光沢がないこと、窓ガラスを落ちる雨粒のような流れが見えること、などが伊羅保釉の特徴です。特に光沢のない表面をよく見ると、アスピリンのようなキラキラした細かい結晶が覆っていて、そのキラキラしたものの所為で逆に光沢がなくなっているのがわかります。このような釉の特徴(調子)を結晶釉調と言います。釉の色は、金属を加えてはいないけれど、もともと材料に含まれている鉄分(2%程度)に依るものです。ここで調合比をみると、土灰(熔かす材料)70%に対し、芦沼土(繋ぐ材料・熔ける材料)30%と、熔ける材料の割合がかなり少ないようです。調合比と釉調に関係があるだろうことは容易に想像できます。その想像ができれば充分です。

A.志野釉
一般的な調合は以下です。

志野釉
材料
長石 100

1230℃で酸化焼成
平津長石100%

1230℃で還元焼成
平津長石100%

単純と言えばこれほど単純な調合もないでしょう。そもそも調合といえるのでしょうか。だから逆にこれ以上難しい釉薬もありません。長石ではなく、鬼御影と言われる風化した御影石を使うとも言われます。とにかく土や長石の選び方に始まり、それを粉にしたときの粒子の大きさ、施釉の時の厚みやかけ方(素焼きをするかしないか等)、窯、焼成温度と焼成時間、あるいは焼成後の冷まし方、いろんな工夫が必要になります。
表面にピンホールと、貫入(かんにゅう)と呼ばれる釉のひびがあること、そして白いこと、これが志野釉の一番の特徴です。この白さは色釉の項で作った白釉のように金属を使ってはいません。だからもっと柔らかい白色をしています。これは釉中に小さな気泡ができて、それが光を乱反射するからです。またよく見ると表面に光沢もありません。でも伊羅保釉のようなキラキラする結晶は見えません。実はこれも目には見えないもっと小さな結晶があって、光を乱反射するからです。このような釉の特徴を失透・マット釉調と言います。当然もう、釉の調合(熔かす材料・繋ぐ材料・熔ける材料)の割合によるものだとお気づきのことでしょう。その考えでテストを続けていけばきっとお気に入りの釉はできます。

B.白萩釉
伝統的な釉と言っていいかどうか微妙ですが、その知名度と人気度から、そして特徴からもぜひ取り上げておきたいと思います。一般的な調合は以下です。

白萩釉
材料
三雲長石 20
土灰 30
わら灰 50

1230℃で還元焼成
福島長石8・対州長石12・土灰30・わら灰50

白い釉です。志野釉とは明らかに違いますが、志野釉と同様白濁させる金属は使っていません。ときに青みを帯びたりピンクがかったりします。わら灰の代わりにもみ灰を使った卯の斑釉と言うのもあります。籾の方が藁よりも熔ける材料が多く含まれているのですが、特徴としてはよく似ています。光沢があり、よく見ると細い細い糸のような白い線が無数に重なって流れているような不思議な白さです。詳しいことは私も良く知りません。なんでも釉の層が分離していて界面で光が屈折することで乳濁するのだそうです。このような釉の特徴を乳濁釉調と言います。

以上見てきた3つの釉調のほかにもう一つ、透明光沢釉調というのがあります。このページで一般的な調合としてあげたほとんどが、透明光沢釉調です。釉薬作りの楽しさは釉調を探ることに尽きるかもしれません。そこで釉調のことを大雑把に(釉薬作りはそれで充分だと私は思っています)説明しておこうと思います。
伊羅保釉のように、熔かす材料が極端に多い調合、つまり相対的に繋ぐ材料と熔ける材料の割合がとても少なくなっている場合が、結晶釉調。これは分かりやすい(調合比で分かる)のですが、他は材料の成分比が分からないと調合比だけでは判断が難しいところがあります。でも結果から言えば、繋ぐ材料が熔ける材料に対して比較的多いとき、失透マット釉調。逆に熔ける材料が繋ぐ材料に対して比較的多いとき、乳濁釉調。両方のバランスがとれているとき、透明光沢釉調。ということになります。これで一応の予測はできますが、結果は焼成後にしか分からないことですから、データを積み上げて行くしかありません。


調合が単純ということが釉が単純ということにはなりません。それだけ洗練されているともいえます。ゼーゲル式を理解することで良い釉(それがあるとして理想の釉)が作れるわけではありません。最初に言ったように釉薬調合のバリエーションはほとんど無限です。また志野釉でみたように、良い釉ができるのは調合だけではなく、他の要素もたくさんあります。つまりたくさんテストしてみるしかありません。そのテストを効率的にするためには、ゼーゲル式はとても便利なものであることは確かです。


5.釉調とゼーゲル式 

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