5.釉調とゼーゲル式

ここで今まで見てきた釉薬のことを、簡単にまとめておきましょう。
まず、釉薬は「熔かす材料」「繋ぐ材料」「熔ける材料」でできているということです。
この3種類の材料の組み合わせを変えることで、いろんな釉薬が生まれます。それに金属を加えるといろんな色釉ができます。

つまり釉薬作りとは自分の気に入る釉薬になるような、この3種類の組み合わせを探ることですが、それを具体的にどのようにするか、いろんな方法があります。一般的には、一つの材料を固定するやり方があります。たとえば「熔かす材料」(福島長石・土灰など)を仮に30%に固定して、残りの70%分に「繋ぐ材料」(カオリン・木節粘土など)と「熔ける材料」(わら灰・珪石など)を振り分けてやってみる。同様に固定する材料を「繋ぐ材料」や「熔ける材料」に変えてやることもできます。このとき「それぞれの材料」の種類を1種類にするか何種類にするかでもまた無数の組み合わせができます。普通はあまり複雑にならないように、材料の種類も固定します。長石、灰、土石類、それぞれたくさんの種類があります。ですからまた、たとえば調合比を「熔かす材料」30%、「繋ぐ材料」30%、「熔ける材料」40%、のように固定して、それぞれの材料の種類を変える(福島長石を三雲長石に、松灰を石灰に、・カオリンを黄土に、・わら灰を珪石に、)というやり方もあります。もちろん3種類の組み合わせであれば、思いつくまま手当たり次第でもかまいません。

まったく正確ではないけれど、ごくごく大雑把に言えば、熔かす材料を多くすれば結晶釉調、繋ぐ材料を多くすればマット釉調、熔ける材料を多くすれば乳濁釉調になります。ほどよく振り分ければ透明光沢釉調です。前項の伝統的釉薬の調合を参考にしてみてください。

そしてここにもう一つゼーゲル式を使って計算で調合する方法があります。

今まで「具体的に分かり易く」を心がけて説明してきたことで、かえって釉薬が分かりづらくなった部分もあると思います。そこで今度はゼーゲル式という記号をとおして釉薬を見てみましょう。ここからゼーゲル式の説明に入ります。

宝石のような、不思議な釉薬を記号化し、化学式で見せてくれたのがゼーゲル博士です。その化学式をゼーゲル式と言います。 使ってみるとけっこう便利なものです。

一般式は以下です。



Rを使って材料の酸化物を分子で表しています。今まで読んできたことを思い出しながら見てください。左、a bの係数がついているのが塩基性酸化物(熔かす材料)、中、xがついているのが中性酸化物(繋ぐ材料)、右、yがついているのが酸性酸化物(熔ける材料)です。それを記号で書くとこうなります。






一般式では分かりにくいので具体的に表すと以下になります。







低火度釉(楽焼きなど)の場合、Pb(鉛)やB(ホウ素・ホウ酸)を使うこともありますが、高火度釉(一般的な陶磁器釉薬)ではほとんどの場合、左の酸化物でカバーできます。
中性酸化物は酸化アルミニウム(アルミナ)、酸性酸化物は二酸化ケイ素(シリカ)です。
塩基性酸化物の係数(モル数)の合計を1としたとき、アルミナの係数(モル数)が 0.1〜1.2、シリカの係数(モル数)が1.0〜12の範囲で、釉薬ができるということを表しています。つまり、熔かす材料を1としたときの、繋ぐ材料と熔ける材料の割合を表しています。(モル数とは、ここでは単純に分子数と思っていいでしょう。)





では、このゼーゲル式(釉式と言うこともあります)を使って何ができるのか、また何が分かるのかということになります。
たとえば色釉の項で説明をしていなかったことがあります。基釉が透明釉と土灰釉では、ベンガラを同じ6%にしたのに飴色の濃さが若干違っていました。その理由をこのゼーゲル式を使えば説明することができます。

材料
福島長石 80
土灰 20
べんがら 6

この透明釉をベースにした飴釉のゼーゲル式は以下です。

材料
福島長石 60
土灰 40
べんがら 6

この土灰釉をベースにした飴釉のゼーゲル式は以下です。

Fe2O3(べんがら)のモル数を比べると、透明釉ベースは0.14、土灰釉ベースは0.1、この差が色の差に出ていることが分かります。


またアルミナとシリカの割合によって釉調が決まるということがあります。これは正確とは言えないものなのですが、一応の目安にはなります。焼成温度との兼ね合いもあり、実際には焼いてみないと分からないところも多いのです。でも知っておけば便利はいいので、簡単な表と説明を付けておきます。

座標で表すため、ゼーゲル式でアルミナとシリカのモル数を示すx 、yとは逆になっているので注意してください。座標ではxがシリカでyがアルミナです。


座標はY軸がアルミナ、X軸がシリカで@、A、Bの直線は以下です。

これで釉調の範囲を表すと以下のようになります。もちろんx、yは、それぞれゼーゲル式のモル数の範囲内であることを前提としています。

 結晶釉調の範囲

 失透・マット釉調の範囲

 乳濁釉調の範囲

  透明光沢釉調の範囲


と、表すことができます。このように記号と数字で表すと、釉薬の中身が、すっきり見えて分かり易くなります。

釉薬を作るときに釉調は大切な要素です。それを予測するために(一応の目安とはいうものの)骨組みが見えるゼーゲル式はかなり頼りになります。

ゼーゲル式を使えば、ある調合を化学式にして、その調合が熔融するかどうか、どんな釉調になるか予測することができます。また伝統的な釉薬を含めた、既存の調合を化学式に分解して、その化学式から別の調合を作り出すこともできます。今手元にない材料があっても、別の材料で置き換えて、同じ釉薬を作ることができるわけです。自分の好む釉調を化学式にして、そこから調合を作り出すこともできます。それは釉薬のテストが格段に効率的になるということです。
このようにゼーゲル式を使う利便性はいろいろあります。

本来ならここで私はその計算の仕方を丁寧に分かり易く説明すべきなのでしょう。でもそれはしません。ここで計算方法を説明するより、その面倒な計算をしなくて済むようにした方がいいと思ったからです。どうしても分かりたいと思う方は、すみませんが他のサイトを探すか本を読んでください。ここでは説明はしません。
私はその面倒な計算はコンピューターにやってもらうことにします。表計算ソフトを使って釉薬用の計算式ファイルを作りました。グレーズマスター、グレーズメーカーとちょっと大げさな名前をつけましたが小さなファイルです。それでも私はかなり重宝して使っています。それを一般用に少し改良しました。私と同じように、ゼーゲル式は使いたいけれど面倒な計算はいやだという方には、ダウンロードページを用意しています。
三角座標で作ったり、自分の思いつきで作った調合がまず熔けるのかどうか、どんな釉になるのか、実際に焼いて見るのは楽しみなものですが、当然不安もあります。グレーズマスターはその調合を入力すると、それが熔けるかどうかすぐに判断します。もちろんゼーゲル式と釉調も表示します。それで逆に興味を削がれそうですが、それを踏まえた上で焼いてみるとまた別の楽しさがあります。興味のある方はファイルをダウンロードして、ゼーゲル式も一緒に釉薬作りを楽しんでください。
もちろんダウンロードはフリーです。使ってみて感想をお聞かせいただけたら嬉しく思います。

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